税理士について
建議要望事項
平成25年度税制及び税務行政に関する建議書
[1] はじめに
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は日本に未曾有の被害をもたらした。それは物質面ばかりでなく人々の心の中にも大きな爪痕を残した。
この国難に立ち向かうためには、日本全体がひとつになり日本人が今までに培ってきた英知を集め、ひとりひとりが自分たちの出来ることを出来る範囲で復興のために協力していかなければならない。
復興は単なる災害復旧ではなく、活力ある日本を取り戻すために未来を視野に入れた抜本的なまちづくりが必要である。
日本経済は長引くデフレや震災の影響、過度な円高等で立ち直りの兆しも見せないままヨーロッパの経済危機が追い打ちを掛けてしまった。
日本国内の生産と輸出の落ち込みが止まらず、設備投資の減少、企業収益の悪化が続き雇用の促進も進んでいない。個人消費は冷え込んだままのなか、税と社会保障の一体改革のもと消費税の税率が上げられようとしている。
このような厳しい環境下のなか国の基盤となる税制がどうあるべきかを真剣に議論し、経済・社会の変化に対応したあるべき税制を構築していかなければならない。
[2] 基本的な考え方について
税理士法では、「税理士会は、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。」と規定されている。この規定に基づき、各税理士会では、公平かつ合理的な税制の確立と申告納税制度の維持・発展を目的として、税制改正に関する建議書を毎年作成している。その基本的な考え方は以下のとおりである。
(1)公平な税負担
(2)理解と納得のできる税制
(3)必要最小限の事務負担
(4)時代に適合する税制
(5)透明な税務行政
[3] 建議書の構成と概要
関東信越税理士会(以下、「本会」という)の建議要望は、基本的に前年度分を参考とし、会員から収集した項目を中心に本会調査研究部において取りまとめを行い、理事会における審議を経て公表している。なお、「税制改正大綱」等に取り上げられた項目や詳細な検討の上で新たな意見形成が必要な項目については、建議書への掲載を見合わせている。
本建議書は、52項目の要望について「税制に関する建議・要望項目」、「税務行政に関する建議・要望項目」に大別した上で、税制に関しては、税目ごとに分類している。概要は以下のとおりである。
■税制に関する建議・要望項目
[一] 国税通則法関係(9項目)
●納税者の権利の保護を図り、税務行政の透明性を求める内容の項目を挙げている。
・納税者権利憲章の早期成立
・後発的事由がある場合の更正の請求期限延長
・不服申立ての決定又は裁決があるまでの徴収猶予
・遡及課税禁止の規定の新設
[二] 所得税法関係(14項目)
●資産損失・譲渡所得関係
・土地等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除を認めること
・事業用資産の譲渡損失を必要経費に算入
・上場株式に係る譲渡損失の繰越期間を延長すること
●給与所得関係
・給与所得者について確定申告を原則とし、年末調整は選択制とすること
●届出・提出期限の関係
・財産債務明細書の提出廃止
[三] 法人税法関係(4項目)
・役員給与の定期同額給与の廃止
・交際費課税の廃止
[四] 所得税法・法人税法共通関係(3項目)
・電話加入権について減価償却資産として償却を可能とすること
[五] 相続税法関係(6項目)
・課税方式を純粋な遺産取得税方式に改める
・連帯納付制度の廃止
[六] 消費税法関係(4項目)
・簡易課税等の適用について当該事業年度の課税売上高に基づく判定とすること
[七] 地方税関係(8項目)
・個人事業税の事業主控除額の引き上げ
・固定資産税・都市計画税について評価の適正化を図ること
■ 税務行政に関する建議・要望項目(4項目)
・内部通達を含め法令解釈通達をすべて公開すること
税制に関する建議・要望項目
[一] 国税通則法関係
[1] 納税者権利憲章を早期に成立させること。(新規)
(理由)
納税者の権利を明確化するため、早期成立を要望する。
憲法第30条に「納税の義務」が規定されている。また、憲法前文には「国民主権」が謳われている。納税者である国民には義務もあれば当然に権利がある。納税手続きについても然り、納税者権利憲章とは権利だけではなく義務も規定するものである。わが国の税制は行政側の視線に立った規定しかなく国民である納税者の視線に立っていない。
欧米諸国や韓国などにも納税者の権利義務を規定した制度があるにもかかわらず、先進国である日本にいまだ制定されていないことは税務行政上大きな問題であり、社会保障と税の共通番号などの論議とは関係なく早期に成立させるべきである。
[2] 後発的事由がある場合の更正の請求期限を、事由確定の日から現行2か月以内を1年以内に変更すること。(通法23A)(継続)
(理由)
この規定は、後発的な減額事由が発生した場合の納税者の権利救済規定であり、その目的を達成することができるよう、手続期間を十分確保する必要がある。2か月以内では期間を徒過することがあるため、期間を延長すべきである。
[3] 納期限の翌日から2月を経過した日以後の延滞税の割合(年14.6%)を引き下げること。 (通法60、法法75、所法131)(継続)
(理由)
延滞税には、遅延による行政処分的役割がある。しかし、過去に例を見ない低金利の状況を勘案し、14.6%部分についても、特例基準割合(基準時点の基準年利率+4%)の2倍程度の割合を適用すべきである。
[4] 還付加算金の割合を日本銀行法規定の商業手形の基準割合に改める。(通法58、措法95、通令24)(新規)
(理由)
日本銀行法により定められている商業手形の基準割引率に年4%の割合を加算した割合は、現在の銀行金利の情勢から鑑みても非常に高率であり、そのため中間納付で故意に過剰な納付を行うようなケースも出てきており、率を引き下げる必要がある。
[5] 不服申立てをした場合に、その不服申立ての決定又は裁決があるまで徴収を猶予すること。(通法105)(継続)
(理由)
課税処分について不服申立てをしていても、徴収を猶予しないため、その税金を納期限までに完納しなければ、督促や差押えなどの滞納処分が行われてしまう。その不服申立てについての決定又は裁決があるまでは徴収を猶予して、不服申立ての手続に集中できるようにすべきである。
[6] 災害等による期限の延長の理由に、「税理士及び税理士事務所の災害」などの文言を加えること。(通法11)(継続)
(理由)
中小法人及び個人納税者は、税理士事務所への依頼割合が大きいため、納税者だけでなくその関与をする税理士事務所の災害等も期限の延長の理由に加える必要がある。
[7] 還付を受ける税額と納付すべき税額があった場合、還付金の充当を納税者が選択できるようにすること。(通法57)(継続)
(理由)
納税者に納付すべき税金と還付すべき税金があった場合に、課税庁は還付金をこれに充当することができる旨定められている。申告納税制度を採用している以上、納税者の側でも、申告納付時に還付金の充当を選べるようにすべきである。
[8] 期間税の場合も含め、遡及課税禁止原則の規定を設けること。(通法15)(継続)
(理由)
遡及立法は、現在の法規に従って課税が行われるという一般国民の信頼を裏切り、その経済活動における予測可能性や法的安定性を損なうことになる。期間税のように、当該取引等により直ちに納税義務が確定せず、期間の中途で行われた法改正の後に、期間が終了する時点で納税義務が成立するものであっても、納税者は当該取引等の時点における租税法規に従って当該取引等に関する納税義務が成立するのであろうと信頼するのが通常であると考えられ、このような場合においても、その信頼を保護する必要がある。
[9] 所得税、法人税、相続税等における同族関係者としての規定の範囲は縮小すべきである。(法令4、相法22他)(新規)
(理由)
所得税、法人税、相続税等において、同族関係者及び特別関係者の範囲を定める場合は、民法上の親族概念が借用されているが、社会通念上の親族観念との間には相当の乖離が認められる。納税者の予期しないところで不測の適用範囲に該当してしまう場合がある。
国民感情から乖離することなく個別各制度の趣旨に即した範囲に限定することが必要である。取引相場のない株式等の評価に際しての同族関係者の範囲は、配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等姻族程度が適切である。各税共通するものとして定義できるとすれば国税通則法にこれを配することが適切である。
[二] 所得税法関係
[1] 不動産所得・雑所得を生ずべき業務用資産についても、事業用資産と同様の資産損失制度とすること。(所法51C)(継続)
(理由)
資産損失は前年以前の所得金額を修正する機能があるため、事業用資産以外の資産についても考慮すべきである。事業に準ずる不動産所得であっても、例えばビルを取り壊して新しい事業を行うなどの場合、その資産損失は翌期繰越しもできないので、救いようがない。
[2] 土地・建物等の譲渡により生じた損失について、損益通算及び繰越控除を認めること。(所法69、措法31、32)(継続)
(理由)
損益通算は、所得の種類を問わず適正な担税力に応じて課税するという、課税原則の基本理念を実現するための制度であるが、土地建物等の譲渡損失について損益通算及び繰越控除を認めないことは、担税力を失った部分に対しても課税することになり、分離課税と総合課税との仕組みの差はあるものの、課税上の問題がある。
[3] 事業用資産の譲渡損失の所得区分を変更すること。(所法51、69)(継続)
(理由)
不動産所得、事業所得の事業の用に供される固定資産の資産損失は、各種所得の必要経費に算入される。しかし、譲渡損失は譲渡所得となり、損益通算が制限されている。事業や不動産経営を廃業するときには、その事業の用に供していた固定資産を売却することが多い。その際発生する譲渡損失は、これまでの事業所得や不動産所得の修正、清算としての性格を有する。事業用資産の譲渡損失は、事業所得又は不動産所得の必要経費に算入すべきである。
[4] 青色申告の純損失の繰越控除期間を相当期間延長すること。(所法70)(新規)
(理由)
青色申告法人は現在9年の繰越控除期間が設けられており、公平性の観点からも延長を要望する。
[5] 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除期間を相当期間延長すること。(措法37の12の2)(継続)
(理由)
「貯蓄から投資へ」という政策により、個人の資金が投資へと流れたが、2008年の世界的な金融危機に伴い発生した株価暴落により、多数の個人がかなりの損失を被ったと考えられる。
現行税制では、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除期間は3年とされているが、この期間を相当期間延長することで、個人が安心して投資活動を行える環境を整える必要がある。
[6] 「土地等の負債利子の金額は、所得税法第69条1項に規定する損益通算の対象とされない」規定は、廃止すること。(措法41の4)(継続)
(理由)
バブル経済時に施行されたこの規定は、土地の異常な高騰を抑制するために立法されたものであり、現経済下においては本規定を存続させる必要性は認められない。
[7] 雑損控除の対象に豪雪の場合における融雪屋根の燃料費を含めること。(所法72@)(新規)
(理由)
豪雪の場合における雪下ろし費用等が雑損控除の対象となることに対し、克雪住宅における融雪屋根も雪下ろし費用等と同様、家屋の倒壊を防止することが目的であるので融雪のための灯油等の燃料代も社会状況の変化(灯油代の値上がり、高齢化、自治体による克雪住宅の普及支援等)に合わせ雑損控除の対象とすべきである。
[8] 所得税法56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)、57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)を廃止すること。(所法56、57) (継続)(理由)
(理由)
戦後創設されたこの規定は、世帯を課税単位とするものであり、個人単位課税を原則とする現行の所得税法の例外的規定である。親族に支払う労働や役務提供の対価については、その実情に応じて経済的合理性の観点から判断されるべきであり、生計を一にする親族というだけで、必要経費算入が否定されるべきではない。
[9] 給与所得者についても確定申告を原則とし、年末調整は選択制とすること。(所法183〜198)(継続)
(理由)
給与所得者自らの責任において、税額を計算し納税する制度が民主主義的租税制度に適するものである。また、雇用者に対して、配偶者のパート収入や障害者手帳等の提出など、プライバシーの開示をしなければならない制度は改めるべきである。
これからは、所得税の徴税コストを民間企業に負担させるべきではなく、今後は電子申告の普及促進を図り、確定申告を原則とするべきである。
[10] 源泉所得税関係について、次のようにその取扱いを改めること。(継続)
(1) 納期特例制度は、承認申請ではなく届出制とし、その届出月から納期の特例を認めること。
(2) 個人事業の新規開業者及び新設法人については、その届出が「開業届」又は「設立届」の法定期限までに提出された場合には、納期の特例適用を開業の日又は設立の日から認めること。
(3) 源泉所得税の納期の特例が認められる基準に、給与の支払を受ける人数だけではなく、税額の基準も加えること。(所法183、212、216、217)
(理由)
(1) 納期特例制度は承認申請となっているが、これを届出制として、当該届出月からの適用を認めるべきである。
(2) 個人事業の新規開業者及び新設法人について特例制度を設けて、その届出が「開業届」又は「設立届」の法定期限までに提出された場合には、徴収義務者の便宜と税務行政の円滑な運営を図る観点から、開業の日又は設立の日から納期の特例の適用を認めるべきである。
(3) パート社員の雇用が増えている昨今の状況を考慮し、源泉徴収税額が一定額以下の企業は、給与等の支払を受ける者の人数を問わず、納期の特例規定を適用可能にするなどの基準を加えるべきである。
[11] 所得税法第124条に規定する申告書(準確定申告書)の提出期限を、相続税の申告期限と同一にすること。(所法124、125、消法45)(継続)
(理由)
準確定申告書の提出期限が4か月ということは一般納税者に知られていないが、納税者の死亡後提出する相続税の申告期限は周知徹底されてきていること、相続財産の分割後に申告が可能となる点も考慮して、相続税の申告期限と同一にしてほしい。
[12] 青色申告の承認申請の期限を、相続による事業承継の場合には事業承継者の確定申告期限までとすること。(所法144)(継続)
(理由)
被相続人の事業を承継するにあたり、相続人間での協議に十分な時間を必要とするため。
[13] 税務署に提出すべき法定書類については、次のとおり改めること。(所法232、所規93A)(継続)
(1) 財産債務明細書の提出制度を廃止すること。
(2) 法定調書の提出について給与等の源泉徴収票の添付を廃止すること。
(理由)
(1) 所得税の確定申告については、必要最低限の提出書類で足りるようにすべきである。財産債務という個人情報を一定の収入額以上の者に一律に求めるのは、納税者に対する権利保護、プライバシーの観点から問題である。
(2) 給与支払者は、市町村に受給者全員の給与支払報告書の提出を行っている。将来的には、国税と地方税の一元化により、提出書類の省略を図るべきである。
[14] 認定NPO以外のNPOに対する寄付金も寄付金控除を認めること。(所法78、120、措法41の18の3)(継続)
(理由)
現在NPOに対する寄付金控除が認められているのは認定NPOのみである。しかしながら認定NPOの数は限られており、ほとんどのNPOは特定寄付金の対象となっていない。これらの団体は、最近の経済状況の後退により、財務的に非常に逼迫しているのが現状である。そこでNPOの普及を単なる流行にしないためには、金額の上限を設けるなどの措置は必要ではあるが、原則としてNPOに対する寄付金も寄付金控除の対象とすべきである。
[三] 法人税法関係
[1] 役員給与の損金不算入の規定を改め、定期同額給与の原則を廃止すること。(法法34)(継続)
(理由)
会社法では、役員に対する給与については費用性を認めている。役員は会社経営の最高責任者であり、その役員に対する報酬が定期同額の原則から外れた場合に認められないというのは制度として不適切である。
[2] 交際費課税について、社会通念上必要な支出は課税除外とし、定額控除限度額以内の支出額の10%課税も廃止すること。(措法61の4)(継続)
(理由)
交際費課税の趣旨は、企業の冗費・濫費の抑制にあると理解するが、課税強化により、社会通念上必要とされる慶弔費等にまで課税されることの不合理が明らかとなっている。さらに、定額控除限度額内の定率課税も、その理論的根拠に乏しく、廃止すべきである。
[3] 退職給付引当金の損金算入制度を創設すること。(継続)
(理由)
労働協約や就業規則等による退職金規定は、将来の債務や労働条件として企業にとって強い拘束力がある。当該事業年度において発生する退職金要支給額は、将来において支出される蓋然性が非常に高い。また、退職金の金額は規定により合理的に算出され、企業会計上も退職給付引当金は、負債性引当金として計上することが要求されている。
しかし、法人税法の債務確定基準においては、退職という給付原因が具体的に発生していないため、退職給付引当金繰入額の損金算入は認められていない。また、本来の期間費用である退職給付引当金について、退職事業年度まで損金算入を行わないことは、企業の税負担の平準化につながらない。
労働協約及び就業規則等により、退職給与の支給規定を定めている法人については、その規定による退職給与要支給額の当期発生額の損金算入を認めるべきである。
[4] 清算中の通常の所得課税において残余財産を超えて税負担をすることのないような措置を行うこと。(法法59)(継続)
(理由)
清算所得課税の廃止及び通常の所得課税への移行に伴い、内国法人が解散した場合に残余財産がないと見込まれるときは、期限切れ欠損金の一定額の損金算入が認められることとされた。しかしながら、含み益のある資産を売却して銀行借入れの返済などを行った結果、少額の残余財産が残った場合には期限切れ欠損金が損金算入されることがなく、残余財産を超える納税を求められることとなる。これは担税力のないところに課税することとなるため、残余財産を超えて納税負担を求められることのないような措置をすべきである。
[四] 所得税法・法人税法共通関係
[1] 少額減価償却資産についての必要経費、損金算入の金額基準をすべて30万円未満とする。(所令138、139、措法28の2、法令133、133の2、措法67の8)(継続)
(理由)
税制の簡素化を考慮し、10万円未満の損金算入、20万円未満の一括償却制度を廃止し、これらを統合して30万円未満に一本化すべきである。また、現在ある上限300万円を撤廃し、かつ、恒久的制度とすべきである。
[2] 電話加入権について減価償却資産として償却を可能とすること。(所令6、法令12)(継続)
(理由)
電話加入権は、無形固定資産として減価償却ができないこととされているが、現在では電話債券の引受義務はなく、設備費のみの負担で済むようになっているため、市場での取引価値はない。従って、現在無形固定資産として計上されているものも含めて、償却を可能とすべきである。
[3] 中小企業の税制に関し、以下の措置を講じる。(新規)
(1) 新たに事業を始めた場合(法人成りを除く)には、一定期間通常の所得税、法人税の一定額を減額する。
(2) 過疎地域に工場等を進出した場合には、投資相当額に達するまでの所得金額につき、一定期間通常の所得税、法人税の一定額を減額する。
(理由)
近時の経済状況に鑑み、特にわが国経済の基盤をなす中小企業活性化のために、このような制度を盛り込んだパッケージ税制を設けるべきである。
[五] 相続税法関係
[1] 相続税の課税方式について、法定相続分方式による遺産取得税方式から純粋な遺産取得税方式に改めるべきである。 (相法11、15、16、17、34)(新規)
(理由)
遺産取得額が同額であっても、遺産総額や法定相続人数により負担相続税額は異なること、一部相続人に遺産の漏れがあった場合などでもすべての相続人に影響を及ぼすなど、合理的ではなく納得しがたい。遺産取得税方式の徹底は、制度採用当時からの社会状況の変化などに照らしても納税者の受容度は高いと考えられる。
この方式の採用とともに相続人個々がその判断、責任のもとに納付方式を選択利用することとして、連帯納付制度の廃止も要望する。
[2] 財産評価の基本的事項については、法令において規定すること。(相法22)(継続)
(理由)
相続税法22条には評価の原則しか定められていないため、実務上は通達に依存している。相続税・贈与税においては、財産評価が課税標準に及ぼす影響が極めて大きく、その通則が法令に定められていないことは、租税法律主義の観点から容認できるものではない。
[3] 後発的事由がある場合の更正の請求期限を、事由が生じたことを知った日の翌日から1年以内とすること。(相法32)(継続)
(理由)
この規定は、後発的事由による権利救済としての規定であり、その目的を達成することができるよう、手続期間を十分確保する必要がある。
[4] 非上場株式の納税猶予制度の適用条件を緩和すること。(措法70の7の2〜70の7の4、措法令40の8、措法令40の8の2)(継続)
(理由)
納税猶予の適用を受けた後の5年間に、常時使用従業員の数が従業員数起算日における従業員数の100分の80を下回る数となった場合に経済産業大臣による認定が取り消され、納税猶予が打ち切られ、猶予税額の全額と利子税を合わせて納付しなければならないが、中小企業の経営環境は不安定で黒字企業割合が30%に満たない状況では、この条件を維持することは難しいと思われるため、廃止すべきである。
経済環境が大きく変化する中で、現行のように雇用環境を5年間にわたり予測することは非常に困難であり、事業承継に大きな支障をきたしている。適用条件を緩和することで、中小企業の事業承継を積極的に進めることができる。
[5] 葬式費用の控除対象者について、制限納税義務者(国外居住者)について控除を認める。(相法1の3、相法13)(新規)
(理由)
葬式費用は民法885条にいう「相続財産に関する費用」に含まれ、また葬式費用に先取特権が認められていること(民法306、309)を根拠として遺産から支出すべきであるとされる。
負担をした相続人が制限納税義務者という理由で債務控除できないのは、国際化の進む日本において課税の公平性を欠くものである。
[6] 住宅取得資金の贈与に係る贈与税の非課税条件の緩和を図る。(措法令40の4の2、措法令40の5)(継続)
(理由)
耐用年数表によると鉄筋コンクリート住宅用などは47年、木造住宅は22年であり、耐火建築物の既存住宅の適用要件は、耐火建築物以外の既存住宅の20年要件に比べると課税の公平性からみても問題がある。最近の実例では中古マンションを購入、リフォームのうえ住宅として使用する者も多い。
新耐震基準が施行されて30年が経過し、不動産取得税における中古住宅の特例では、昭和57年1月1日以降の建物は新耐震基準に適合しているとみなすことになっていることも考慮すれば、耐火建築物の既存住宅の適用要件を緩和し、30年に延長してもよいと考える。
また、景気対策として、眠っている親世代の金融資産を掘り起こし、若年層を中心とし住宅取得を促進できる。
[六] 消費税法関係
[1] 納税義務の免除制度を廃止し、原則としてすべての事業者を課税事業者とする。
ただし、小規模事業者の申告納税事務負担を考慮し、その課税期間の課税売上高が年間1,000万円以下の場合は申告不要制度を導入する。
課税事業者、免税事業者の区分判定や仕入税額控除に関して、簡易課税を選択するかどうかは、確定申告期限までに納税者が選択できることとする。(消法2@14、9、37)(継続)
(理由)
(1) 平成23年10月に会計検査院から「消費税の課税期間に係る基準期間がない法人の納税義務の免除について」報告書が公表され、基準期間により免税事業者を判定することに対して課税回避行為が行なわれていることが指摘されているため。
(2) 消費税の税率の引き上げが必要だとの議論がなされるなかで、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、課税期間の課税売上高がいくらであっても消費税の納税義務が生じないことは、著しく公平性を欠く。間接税といいながらも、実際は事業者が納税負担をしている面もあり、課税期間開始時に納税義務の有無を判断する必要はなく、当然ながら課税事業者として認識し、その課税期間の課税売上高が1,000万円以下になれば申告不要とする。
(3) 簡易課税の選択を、原則税額控除の個別対応、一括比例配分と同様に確定申告時に選択すること、簡易課税を選択した場合には2年間継続することで意図的な課税回避行為を防止できる。
(4) 小規模事業者は確定した業績に基づき適正に納税ができるようになり、国民の納得も得られると思われる。特に現状は景気が不安定で業績予測が困難なため、不況の影響を受けやすい小規模事業者の負担をやわらげることができ、租税正義向上に資すると考える。
[2] 「帳簿及び請求書等の保存」の要件については、「帳簿又は請求書等」と改め、事業者に過度の負担を生じさせないよう、帳簿における記載事項の整備を図ること。(消法30G、措法86の4)(継続)
(理由)
「帳簿及び請求書等の保存」の要件においては、帳簿への形式的な記載が必要とされ、能率的に事務処理をする記帳実務の中で、事業者の負担が大きくなる可能性もある。検証性を重視する見地からは、まず「請求書等の保存」を中心として位置付け、請求書等に不備がある場合に限り、帳簿への記載によってその補完を求めることとすべきである。帳簿の記載要件を緩和しても、課税取引の事実の検証は十分に可能である。
よって、合理性や効率性を前提とする記帳実務の実態に配慮した仕入税額控除制度を整備すべきである。
[3] 中間申告制度を見直し、選択により中間で納税できる範囲を拡大すること。(消法42)(継続)
(理由)
現行の消費税の納税にあたっては、中間申告時及び確定申告時にまとまった納税資金を準備する必要がある。小規模の新規納税義務者の発生及び景気の低迷による滞納が発生することを防止するため、納税者の選択により対象納付税額にかかわらず中間で納税できる範囲を拡大すべきである。
[4] 法人事業者について、法人税の確定申告期限の特例を受けている場合においては、消費税の確定申告期限についても、課税期間終了後3か月以内にすること。(消法45)(継続)
(理由)
法人における消費税の申告実務は、法人税申告と並行して行わないと正確な計算ができない。法人税の確定申告書の提出期限延長を受けている法人については、課税期間終了後3か月以内とすべきである。
[七] 地方税法関係
[1] 個人事業税の事業主控除額を年290万円から年500万円に引き上げること。(地法72の49の10)(継続)
(理由)
国税庁の統計によれば、わが国のサラリーマンの平均給与額は、412万円(平成22年)となっている。この点を考慮して、適正額まで事業主控除額を引き上げるべきである。
[2] 不動産取得税について、次の改正をすること。(地法73の7)(継続)
(1) 婚姻期間が20年以上の配偶者からの贈与により取得した居住用財産に係る不動産取得税については、非課税とすること。
(2) 相続時精算課税制度適用者が、特定贈与者から贈与により取得した不動産に係る不動産取得税については、非課税とすること。
(理由)
夫婦は、財産を共同で築き上げてきたと解するのが妥当である。従って、一定の条件下において行われた、夫婦間における不動産の移転については、不動産取得税を非課税とすべきである。
また、相続による不動産の取得については非課税になっていることから、相続時精算課税制度適用者が、贈与を受けた不動産についても不動産取得税を非課税とすべきである。
[3] 相続時精算課税制度を適用して特定贈与者から贈与により不動産を取得した場合の移転登記の登録免許税は、20/1000であるが、相続による移転と同じく4/1000とする。 (登録法9)(新規)
(理由)
相続時精算課税制度を設けた趣旨を尊重して、贈与の税率ではなく相続の税率とすべきである。
[4] 少額減価償却資産(30万円未満)については、償却資産に係る固定資産税の対象としないものとする。 (地法383)(継続)
(理由)
法人税、所得税と同一ベースとして、あえて法人税、所得税の償却計算の対象外から再度計算事務の対象に取り込むことは事務負担が大きい。制度を簡素化し負担の軽減を図るべきである。
[5] 固定資産税の名義人課税主義を原則真実の所有者に変更すること。(地法343)(継続)
(理由)
地方税法は固定資産税の納税義務者に関して、名義人課税主義を採用しているが、固定資産税の応益税的性格から考えれば、真実の所有者が税を負担すべきである。
そこで、台帳名義人が真実の所有関係を明らかにする書類を提出した場合には、登記の移転がなくとも、真実の所有者に課税するように制度を改めるべきである。
[6] 新築住宅に対する固定資産税の減額措置の適用年数を見直すこと。(継続)
(理由)
住宅を新築した場合に、3年間税額を1/2とする措置がとられている。他方、新築の中高層耐火住宅等の税額の減額については適用年数が5年である。どちらも居住用家屋としての性格は同様と考えられるため、適用年数を同じにすべきである。
[7] 事業所税を廃止すること。(地法701の30〜32、735)(継続)
(理由)
事業所税は、企業が大都市に集中することにより、インフラ整備等の財政支出を伴うことから創設された。いまや、大都市には都市機能が整備され、たとえ多くの事業所が集中しても円滑に企業活動ができるようになってきている。税制創設の目的は存在しなくなったため廃止すべきである。
[8] ゴルフ場利用税を廃止すること。(地法75)(継続)
(理由)
ゴルフ場利用税の税収は583億円(平成21年度決算額)であり地方公共団体にとっては重要な財源である。しかし、ゴルフ場の利用料金が低下傾向にある中では、その利用が相当高額な消費行為とは言い難く、いわゆる「贅沢税」としての性質をもつゴルフ場利用税の課税根拠は失われているため廃止すべきである。
税務行政に関する建議・要望項目
[1] 法令解釈通達は、内部通達を含めてすべて公開すること。(継続)
(理由)
行政のあり方については、その透明性が求められている。法令解釈通達はすべて公開し、納税者の理解と信頼を得るべきである。
[2] 税務署に提出した書類の閲覧及び謄写に関する規定を整備すること。(継続)
(理由)
納税者の便宜を考慮し、納税者及びその委任を受けた税理士に税務当局に保管されている申告書等の閲覧及び謄写ができるように、国税通則法に規定すべきである。
[3] 不動産取得税の賦課決定を早期に行うこと。(継続)
(理由)
個人又は法人の決算において、適切な計算が行えないため、不動産取得後、2か月以内に税額を確定することが必要である。
[4] 財産評価基準書を過去4年以上の分も閲覧できるようにすること。(継続)
(理由)
財産評価基準書は国税庁ホームページにて閲覧でき、税務署に行かなくても日本全国の路線価等を調べることができ大変便利であるが、閲覧できるのは本年度を含め3年度分のみである。さらに過去の評価額を知る必要がある場合もあると思われるので、過去4年以上分も閲覧できるようにしてもらいたい。更正等の期間制限との関連もあり、少なくとも過去7年分は閲覧できるようにすべきである。
注意事項
@2012関東信越税理士会